オオクニヌシ「根の国訪問」【3】

ピンチを切り抜けたオオナムチを見たスサノヲは驚いたはずです。

そこで更に過酷な試練を与えます。
広大な野原に鏑矢(かぶらや・音の出る矢)を放ち、それを「拾ってこい」と命じます。

現在の弓道の射程距離は十数メートルだそうですが、ただ飛ばすだけならその倍は飛ぶでしょう。ですが鏑矢は信号弾のようなものですから、もっと飛ばせたかも知れません。
それでもせいぜい100メートル程度でしょうか。

オオナムチが草原の中に落ちた矢を捜しに行きますと、スサノヲは頃合いを見て周辺に火を付けます。四方を火に囲まれたオオナムチは今度こそ絶体絶命の危機に陥ります。

そこへネズミがやって来て「内はほらほら、外はすぶすぶ」と告げます。これを聞いたオオナムチは地中に穴があることを察知して地面を踏みつけ、穴に隠れます。
やがて火が上を通りすぎると、ネズミが矢をくわえてきます。

ここではネズミに助けられたのです。

オオナムチは、最初の2問はスセリ姫に助けられ、3番目はネズミに助けられます。
スセリ姫に助けられるのは理解できますが、ネズミに助けられるのはどういうことなのでしょう?

これは今の若い農家の方には分からないのですが、戦前の農業を知るお年寄りなら分かるのだそうです。

農薬やネズミを殺す薬品、更には食料ゴミが少ない時代の農業にとっての最大の敵は、害虫・ネズミ・マムシだったのだそうです。
神話の時代には、食料ゴミなど出るはずはありません。
農薬もネズミ殺しの薬もありません。
ですから農業にとっての目に見える「敵」はネズミだったそうです。

ネズミがオオナムチを助けたということは、「ネズミは彼の味方」つまり「農業の天敵を味方にしている」と伝えたかったのです。

…つづく

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