野原の火が消えたあと、スセリ姫はオオナムチが死んだと思い、泣きながら「葬儀」の道具を準備します。
スサノヲも焼け跡に立って眺めたようです。
そこへオオナムチが矢を持って来たのです。
これは物語としては感動の場面なのですが、古事記はそのような表現をせず、スサノヲが広間で髪に付いたシラミをとらせたとしているだけです。
ところがそのシラミがムカデだったのです。
ムカデという虫の名を知る人は多いと思いますが、実際に見ることは希です。大小様々な種類があるのですが、赤土の崖にいるムカデは毒々しい赤色で、大きさは普通のシャープペンくらいあります。
それが沢山の足を動かしてはい回る姿を見ると、背筋に寒気が走ります。噛まれると「痛い」というより「熱い」という感じだそうで、赤く腫れ上がり、治るのに何日もかかるそうです。
治ったあともしこりが残り、それがとれるまで1年以上かかるそうです。
テレビの映像や写真で見ると「きれい」と感じますが、実物に出会うと逃げ出したくなります。
オオナムチは、おそらくそのようなムカデを取れと命じられたのです。
現代の我々がこれを読んでも取り立てて感じることはありませんが、日常ムカデを見知っている昔の人が受ける印象は相当強烈だったと思われます。
髪の毛の中にムカデがうじゃうじゃいるのに平気なスサノヲの姿をどのように想像したのでしょうか。
他方、オオナムチは素手で触れることはできなかったはずです。
そこでスセリ姫が助け船を出します。椋(むく)の実と赤土を与えたのです。
椋の実をかみ砕いた音が、ムカデをつぶす音に似ていたようです。赤土を口に入れてつばと一緒にはき出すと、赤いどろどろしたものが飛び出します。
ですからスサノヲは、オオナムチがムカデを噛みつぶしてはき出したと思ったのです。
…つづく