もしも古事記の神々が人間だったら・・・【17】

スセリヒメ≪その四≫

誰でも髪の毛の手入れをしてもらっていると、眠くなります。
スサノヲもうとうとし始め、やがて眠ってしまいますが、ここでスサノヲのオオナムジに対する気持ちの変化が書かれています。
これまで三度も無理難題をふっかけたのに、逃げ出しもしないで素直に応じ、全てクリアしています。
その上、シラミではなくムカデ取りをさせているのに、これも文句も言わないでやっているようです。
スサノヲは、スセリ姫が何かと手助けしているのは知っていたと思います。
娘がそこまで惚れ込んだ男が、親父の嫌がらせテストを素直に受け入れているのですから、「うん、まんざらでもないな・・・可愛い所があるじゃないか」と思ったと書かれているのです。

眠り込んだスサノヲを見たオオナムジは「逃げ出すチャンスが来た」と、スサノヲの長く伸びた髪の毛を建物のあちこちにくくりつけ、すぐには追いかけることができないようにします。
その上、扉のところに大きな岩を置いて開かないようにします。
ここまでは「用意周到だな」と、納得です。
でもオオナムジは、八十神達から逃れるためにスサノヲのところに転がり込んだのですから、そこから逃げ出すということは八十神達に戦いを挑むことになります。
ですから武器が必要です。
そこで、スサノヲが大切にしている剣や弓を盗みます。
剣や弓なら誰もが納得することですが、なぜかしら琴まで盗むのです。
古事記は、オオナムジは武器や琴を持ち、スセリ姫を背負って逃げ出したと書いています。
ここで、「二人で走った方が早いはずなのに、なぜ彼女を背負ったのだろう」と、疑問が湧きます。
実は、ここまで古事記には、オオナムジのスセリ姫に対する気持ちが分かるような場面は全く書かれていません。スセリ姫の気持ちは誰にでも分かるように書かれていますし、スサノヲの心境まで説明してあります。
ここが、オオナムジの気持ちを表している唯一の場所なのです。
一刻を争う状態なのに「走らせないで、背負っている」と書くことで、オオナムジがスセリ姫を「最高に大切に扱っている」と読者に分からせようとしたのではないでしょうか。
でも「大切に扱う」と「スセリ姫に惚れている」は、別物です。
私は、「オオナムジはポーズを見せただけで、スセリ姫に愛情を持ってはいなかった」「古事記の編者もそれを知っていたからこのような書き方をした」と受け止めています。

逃げ出すとき、琴が木に触れ、大きな音を響かせます。
この音で目覚めたスサノヲは二人が逃げたことを知り、追いかけようとします。
逃げ出すまでは「用意周到な男」と感じさせるオオナムジですが、『魅惑的な琴』を持ち出したことで「完璧さには欠ける男」でもあるとの印象を与えます。

・・・つづく

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