古事記おじさんの『21世紀の視点で古事記を読む』【13】

―「序」を読む ― ③

ではなぜ元明期にそれが実現したのでしょうか。

元明天皇とは42代文武天皇の母親なのですが、実は持統の腹違いの妹(38代天智天皇の娘)でもありました。つまり彼女は父が38代天皇で息子も42代天皇という、セレブ中のセレブです。ですから権威の血筋としては、申し分なかったのです。でも血筋だけでは権力を得ることはできません。彼女は息子の文武が25歳で亡くなったので天皇になったのですが、亡くなった息子の嫁(皇后)が宮子(みやこ)です。息子文武と宮子の子が45代聖武天皇となり藤原氏の全盛期が始まるのですが、宮子の父が藤原不比等(ふじわらのふひと)です。

つまり元明は、息子の嫁の父親である藤原不比等と組むことで、天皇に権力を集中させることができたのです。これにより、日本国をイメージしていた天武の遺志(=日本国歴史の確定=古事記編纂)を実現させたのです。

でも結果として、父や叔父がクーデターを起こして排除した「蘇我氏」という権力に勝る新たな権力出現の基礎をも提供したのです。

古事記は藤原氏の影響を強く受けていると「藤原氏陰謀説」がありますが、それは以上のような経緯から生じたものでしょう。この説の拠り所のひとつとして、「序」の文体・表現から「序・あとづけ説」があります。これに関して本居宣長は古事記伝で、「安萬侶が書いたものに間違いない」と一蹴しています。私は、経緯と編纂までの時間により、影響を受けたのは古事記ではなく、日本書紀と考えています。

・・・つづく

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