―「神話部分」を読む ― 天照大神と須佐之男命 ① 須佐之男命の昇天
(かれここに はやスサノヲの命のまをしたまはく)
スサノヲが、イザナギに言上した。
(しからば アマテラス大御神にまをしてまかりなむ、とまをしたまひて)
「ならばアマテラスに事情を説明してから立ち去ります」と申し上げて
及参上天時。
(すなはち あめに まいのぼりますときに)
高天原に向かうときに
山川悉動。国土皆震。
(やまかわことごとにとよみ。くにつちみなゆりき)
全ての山と川がとどろき響いて、全ての大地が振動した。
山の川ではない。
動=登余美と読むべき。
国土は山川に対する表現だが、国と土ではなく大地。
(ここにアマテラス大御神 聞きおどろかして)
アマテラスはその音を聞いて驚き
詔我那勢命之上来由者。必不善心。
(あがなせの命の のぼり来ますゆえは、かならず うるはしき心ならじ)
「弟がやって来る理由は、善良な心によるものではないだろう。」
(あがくにを、うばわむと、おもほすにこそと、のりたまひて)
「私の国を奪おうと思ってのことだろう」と言って
即解御髪。纏御美豆羅而。
(すなはち みかみをとき、みみづらにまかして)
すぐさま髪を解き、ミズラ(男の髪型)に束ね
古代、大人の女性は髪をひとつに束ねて垂らしていたようだ。男は左右ふたつ。
何歳からが大人なのか分かりません。
(ひだりみぎりのみみづらにも、みかづらにも、ひだりみぎりの、みてにも)
左右のミズラ、髪、左右の手に
各纏持八尺勾璁之五百津之美須麻流之珠而。
(みな、やさかのまがたまの、いほつのみすまるのたまをまきもたして)
それぞれたくさんの勾玉を貫いた珠の緒を巻きつけて
(宣長は「八尺」の意味は不明としています。)
(そびらには ちのりのゆぎをおひ、いほのりのゆぎをつけ)
背中には大量の矢が入る靫(ゆぎ)を背負い、脇腹にも同様の靫をつけ
附は側面に添い付ける意味だから脇腹と推測。
(またいつのたかともを、とりおばして)
また肘(ひじ)には大きな音のする鞆(とも)をつけて
鞆は弓を射るときに肘に着ける物で、弦が当たると音がする。音を強調していることから、大きければ敵に脅威を与えるということであろう。
弓を振りたてて
(弓の膨れた所を握って振り立てるという状態?)
堅庭者於向股蹈那豆美如沫雪蹶散而。
(かたにはは むかももに ふみなづみ、あわゆきなすくえはららかして)
堅い地面をしっかりと踏みしめ、土を淡雪のように蹴散らして
(ふくらはぎまで埋まるほど強く踏む状態=意気盛んな状態の表現でしょう。)
(いつのおたけび ふみたけびて待ち問ひたまはく、など のぼりきませる)
威勢よく雄雄しい叫び声を上げながら待ち受けて問いかけた。「なぜここに来たのだ。」
(相手を威嚇する状態を表現しているのでしょう)
(ここに はやスサノヲの命のまをしたまはく、あは きたなきこころなし)
そこでハヤスサノヲの命は答えた。「私に反逆心はありません。」
(ただ大御神のみこともちて、あがなきいさちることを問ひたまひしゆえに、まをしつらく)
イザナギ大神から、私が泣きわめく理由を聞かれたので、
僕欲往妣国以哭。
(あは、ははのくにに、まからむとおもひてなくと、まをししかば)
「亡き母のいる国に行きたいと思って泣いている。」と答えましたら
爾大御神詔。汝者不可在比国而。
(おほみかみ、みましはこの国には なすみそと、のりたまひて)
イザナギ大神は「お前はこの国に住んではならぬ」と申され
神夜良比夜良比賜故。
(かむやらひ、やらひたまふゆえに)
私を追放なさいましたので
以為所請将罷往之状参上耳。
(まかりなむとするさまを、まをさむとおもひてこそ まいのぼりつれ)
この地を離れる事情をお伝えしようと、来た次第です。
「謀反心などありません」と(スサノヲが)言うと
爾天照大御神詔。然者汝心之清明何以知。
(アマテラス大御神 しからば みましの心のあかきことは いかにしてしらましと、のりたまひき)
アマテラスは「ならばお前に邪心が無いことをどのようにして証明する」と尋ねた。
(ここにハヤスサノヲの命、おのもおのも うけひて みこうまなと、まをしたまふ)
そこでスサノヲは「それぞれ誓約(うけい)をして、子を生みましょう」と応じた。
・・・つづく