―「神話部分」を読む ― 須佐之男命の大蛇退治 ③
爾問其形如何。
(その形は いかさまにかと、問ひたまへば。)
(スサノヲが)その姿かたちを尋ねると、
答白彼目如赤加賀智而身一有八頭八尾。
(それが目は、あかかがちなして 身ひとつに、かしらやつ、をやつ、あり。)
「目はホオズキの様に真っ赤で、ひとつの胴体に八つの頭と八つの尾があり、」
亦其身生蘿及檜榲。
(またその身に、苔 また ひすぎおひ。)
「胴体には、苔(こけ)や檜・杉が生い茂っており、」
其長度谿八谷峡八尾而。
(そのながさ たにやたに、を やをを、わたりて。)
「長さは、八つの谷と八つの峰に及んでおり、」
見其腹者。悉常血爛也。
(その腹を見れば、ことごとに いつも 血あえ ただれたり、とまをす。)
「その腹は、いつも血がにじんで爛れています。」と答えた。
此謂赤加賀知者。今酸醤者也。
(ここに あかかがちと いへるは、今のほほづきなり。)
ここでアカカガチと言っているのは、今のホオズキのことである。
爾速須佐之男命詔其老夫。是汝之女者。奉於吾哉。
(かれ はやすさのをのみこと そのおきなに、これ いましの むすめならば、あれに たてまつらむやと、のりたまふに。)
そこでスサノヲがその老夫に「お前の娘を私に嫁がせてくれないか」と言うと、
答白恐亦不覺御名。
(かしこけれど、御名(みな)を しらずと、まをせば。)
「恐れ入ります。ですが貴方様のお名前を存じませんが」と尋ねたので、
爾答詔吾者天照大御神之伊呂勢者也。
(あは、あまてらすおほみかみの いろせなり。)
「私は、アマテラスの弟で、
故今自天降坐也。
(かれ今 あめより くだりましつと、こたへたまひき。)
今高天原から下ってきたところだ」と答えた。
伊呂勢(いろせ)=以呂兄(いろせ)=同母の兄。弟だが男なので使用している。
爾足名椎手名椎神。
(ここに あしなづち、てなづちのかみ。)
(これを聞いた)アシナヅチ、テナヅチは、
白然坐者恐立奉。
(しかまさば かしこし、たてまつらむと まをしき。)
「その様なご身分とは恐れ多いことで、差し上げます」と答えた。
・・・つづく
※注:
青字 … 本居宣長『古事記伝』より