古事記おじさんの『21世紀の視点で古事記を読む』【83】

―「神話部分」を読む ― 大国主神 ⑦ 根の堅州國 – 2 –

於是其妻須勢理毘賣命。以蛇比禮授其云。
(ここに そのみめ スセリ姫のみこと、へみの ひれを そのひこぢに 授けて のり給はく。)

そこでスセリ姫は、蛇のヒレを夫に与えて言った。

其蛇将咋。以此比禮三擧打撥。
(その へみ くはむとせば、この ひれを みたび 振りて うちはらひ給へと のり給ふ。)

「蛇が襲ってきたら、このヒレを三回振って追い払ってください。」

故如教者。蛇静故。寝出之。
(かれ教へのごと し給ひしかば、へみ おのづから 静まりしゆへに、やすく 寝て いで給ひき。)

言われた通りにすると蛇が大人しくなったので、安眠して翌朝(洞窟から)出てきた。

其妻(そのみめ)=既に一度(ひとたび)相婚(みあひ)しているので妻(みめ)と云っている。次にその夫(ひこぢ)とも云っている。

当時は一夫一婦という制度はなく、男女の関係ができると妻・夫となったようです。
ですから男女とも複数の妻・夫関係の相手がいたようです。
正妻はあとに出てきますが、嫡妻(むかひめ)です。
複婚が当たり前の生活ですから、そのことを詳しく書いた書物は見当たりません。

アメリカ先住民の神話に、『男女とも自分に合った相手に巡り合うまで探し求める』話があります。オチは『見栄えのいい人妻が良く見えて何度も取り換えてみたが、地味だから捨てた最初の女性が “家事に優れ、情が深く” 一番よかったことに気づいた。だが今は自分より強い男と仲睦まじく暮らしていて手が出せない』というものです。
また『若い娘が最初は容貌だけで選ぶが、最終的には容姿より生活力と家族を守れる相手がいいことに気づく』『容姿が悪いことに劣等感を抱いている男でも、生活力と女を守る力があれば相応の相手がいる』といった話があります。
ポイントは、男は生活力防衛力で、女は家事です。
日本、いや世界中がそうだったでしょう。これは2千年後の今もあまり変わらないのかもしれません。

蛇比禮(ヘミのひれ)=職員令の集解に、饒速日(ニギハヤヒ)命の降臨の時、天ツ神が瑞寶(みずのたから)十種(とくさ)、
息津(おきつ)鏡一つ
部津(へつ)鏡一つ
八握劔(やつかのつるぎ)一つ・
生(いく)玉一つ
足(たる)玉一つ
死反(まかるかへし)玉一つ
道返(ちかへし)玉一つ・
蛇ノ比禮一つ
蜂ノ比禮一つ
品之物(くさぐさのもの)ノ比禮一つ
を授けて、教へ給はく。
もし痛き者あらば、この十寶を一・二・三・四・五・六・七・八・九・十と云ひて振るへ。ゆらゆらと振るへ。かくぜば死人も生き返へらむ。(この事舊事紀にも記せり)と書かれている。ここでのヒレは十種の中のものではないだろうが意味は同じであろう。このヒレというのは蛇の鰭(ひれ)ではなく、蛇を追い払うヒレである。具体的には、蛇を追い払おうとして『振る物』のことである。

自静(おのづから しずまりし)=襲いかかろうとしていた蛇が、退いて静かになり、害を及ぼさなかった。

來日夜者。入呉公擧蜂室。
(また くる日の よは、ムカデと ハチとの むろやに 入れ給ひしを。)

次の夜はムカデとハチの洞窟に入れられたが、

且授呉公蜂之比禮。教如先故。平出之。
(また ムカデ・ハチの ひれを 授けて、先のごと 教へ給ひしゆえに、やすくて い出給ひき。)

また(スセリ姫が)ムカデとハチのヒレを与えて前日のように教えたので、無事に出てきた。

・・・つづく

※注:
青字 … 本居宣長『古事記伝』より
赤字 … 古事記おじさんの見解です。

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